御堂と松浦

 午後6時少し前、俺は来客用のソファに向かい合わせで座る御堂と松浦を少し離れた場所に立って眺めていた。
 御堂は言うまでもなく匂い立つような美形だが松浦もこうして見ていると悪くない。
「これなどお似合いだと思います」
「少し若すぎないか?ああ、この色なら……」
 松浦に持参させたカジュアルウェアのカタログを御堂は熱心に見ていた。松浦は『洋服は担当外だ』とカタログの持参を渋っていたが顧客を前にするとさすがはデパート店員、セールストークによどみがない。
「あのおふたりを見てるとあれが浮かびますよね」
 いつの間にか帰り支度を終え書類鞄を胸に抱えた藤田が俺の横に立っていた。
「あれとは?」
「あれですよ。時代劇の……」
「悪代官と悪徳商人か?」
 藤田のセンスに呆れて俺は眉をしかめた。時代劇でのそれはたいてい脂ぎった小太りの醜男が雁首揃えて……だろう。
「違いますって。なんでそう思うんですか。佐伯さんてどういうセンスしてるんですか」
「ああ?」
 あからさまな侮蔑の視線を俺に向ける藤田を睨み返す。それはこっちのセリフだ。
「だから、ほら、時代劇の……若衆?」
「ほう?」
 まさか藤田からそんな単語が出てくるとは思わなかった。
「あ、わかります?今でいうゲイっていうか、そういうのだけど、なんていうか……」
「藤田、ようするにお前、あのふたりがお似合いだといってるのか?」
「や、いえ、違いますよ。まさか、とんでもない!いやだなぁ、佐伯さん」
 赤い顔でぶんぶんと首を横に振って否定するその態度が思いっきり『お似合いだと思ってます』と言っているようだった。嫌なのはこっちだ。
「え……えっと、それじゃあ、あの、俺、帰ります。佐伯さ……いえ、社長、お先に失礼します」
 不機嫌丸出しの俺に藤田はそそくさと立ち去った。
 俺は改めて来客用のソファに向かい合わせで座る御堂と松浦を眺めた。
 御堂は美しい。そして松浦も悪くはないが、御堂とお似合いだなどとは例え外見だけであっても俺は認めない。
 御堂とお似合いなのは俺だけだ。

4作目です。よく見ると松浦って美形で受けっぽい!と思って書きました。
本多のことをものすごく恨んでた松浦ですが、本多、お前も悪いよ……って思います。和解してノマ克哉と3人で仲良くバレーしてるの好きです。