ふたりの夜

 食事もシャワーも終えた俺と御堂は、パジャマ姿でリビングのソファに並んで腰かけニュース番組を観ていた。

 同棲を始めて数か月。
 俺は湯上りの御堂のいい匂いや、上気した頬や、柔らかくてすべすべした肌を目の前にしても、がっつかなくなっていた。断っておくが、飽きたわけでも、慣れたわけでもない。当然、枯れたわけでもない。
 無駄にがっつかなくなったのは、御堂がふたりで過ごす他愛無いひと時を俺の気遣いと思ってくれて、セックスの誘いを断らなくなったからだ。毎日誘っても断られない。体調不良や出張とか、どうしてもできない時を除いて、ほぼ毎日してる。
 御堂の見たいテレビ番組、読みたい本、やりたいことをほんの数時間したいようにやらせるだけで毎日アレができるのだ。強引に押し倒して肘鉄を食らうより格段にいいだろう。

 というわけで、今日も俺はチラチラと視姦しつつ、大人しく御堂の隣りに座っていた。

 番組が終わって、御堂が居住まいを正す。
 かしこまって俺の誘いを待つ御堂はとても可愛い。御堂から誘ってくることは滅多にない。
「ああ、今日は御堂さんの日でしたね」
 バーゲンセールの日を知らせるコマーシャルを横目で見ながらふと思いついて俺は呟いた。
「私の日だと?」
「ええ、三月十日。み、とう、みどうで、御堂さんの日です」
 御堂は小首を傾げたまま不審そうに眉を寄せた。
「ただの語呂合わせじゃないか。私は何の関係もないぞ」
「そうですか?せっかくだから、今夜は御堂さんがリードするってどうです?」
「君は、な……何を言ってるんだ」
「積極的な御堂さんがみたいんですよ」
「私にいやらしいことをさせて、楽しみたいということか?」
「俺にいやらしいことをして、楽しんでください」
 テレビを消すと、俺は御堂の手を取って立ち上がった。御堂は俺がどうしたいのか、よくわからないようで戸惑った顔で笑いながらついてくる。寝室の扉を開け、俺は恭しく御堂を招き入れた。

「まだ、イッてはダメだからな」
 先端を舐めながら、御堂が俺の根元をぎゅっと握った。御堂の口淫はぎこちないが、赤い舌や真剣な眼つきに持っていかれそうになって、俺は何度か息を詰めていた。
「御堂、もう……」
「我慢できないのか?どうして欲しい?」
「あんたの中に入りたい」

 ローションを手に取り御堂の中に指をねじ込む。御堂の背中が仰け反り、いいところを俺の指に当てようと腰が揺らめいた。仕事中はまっすぐで、生真面目な印象の背中が妖艶に反り返って俺を煽る。
 指を抜いて、御堂の腰を掴み位置を合わせた。
「あっ……あああっ」
 ずぶずぶと御堂の中に俺が入っていく。
「あっあっ……佐伯……っ」
 後ろ向きに俺に跨る御堂の腕が求めるように空を掻いた。俺は腰に御堂を乗せたまま、身を起こして腕ごと御堂を抱きしめる。御堂の指が俺の手をきつく握り締めた。
「んっ……佐伯、さえきっ」
 緩く動く御堂の腰に動きを合わせながら、俺は御堂のうなじに鼻を擦り付け匂いを嗅いだ。

「……結局、あまり、いつもと変わらなかったような気がするが」
「そんなことありませんよ。あなたのリードに俺は翻弄されました」
「そうは見えなかったぞ」
 くすくすと笑いながら枕に頬を押しつける御堂があまりにも愛しくて、触れたくなった俺はゆっくりと御堂の前髪を梳いた。
 やがて、眠くなったのか、微笑んだままで御堂が目を閉じる。
「おやすみ、佐伯……」
 俺に額を撫でられ、安心しきった様子の御堂に俺は少し切ないような気持ちになった。
「おやすみなさい、御堂さん」
 御堂と同じように目を閉じると、ふたりでこんなふうに幸せな夜を過ごせることの喜びが俺の胸を満たした。

2017年3月10日御堂さんの日記念SSです。
襲い受け御堂さんを書こうと思ったのですが、短くてぬるいエロ描写になってしまいました。
甘々な雰囲気が出てるといいなー。